― あぁ、飛地… ―

和歌山県東牟婁郡北山村

【和歌山県の北山村、そして…】

1995年1月のある朝。私は、常宿のある新宮市を出発し、和歌山県東牟婁郡北山村へと向かいました。北山村へ行く理由は、何もありませんでした。強いて理由付けをするならば、「北山村」という場所が、離島を除き、日本唯一の「市町村全体が、飛地となっている」という点だったでしょうか…

その、95年の最初の北山訪問から何年か経ち、写真趣味を始め、ホームページ作成も始めた私が、先日再び北山へと足を向けました。そこで、今回は「街と鉄道」に、この村で撮影した写真を並べてみようと思います。ただし、今回は「北山村」の歴史を追うことはしないつもりです。
その理由ですが…
最近、私は思っていることがあります。それは、「街」にしても「鉄道」にしても、いたずらに「たどった歴史を追う」ことは、マナー違反になることもあるのではなかろうか、と…
「知られたくないこと」というものは、どんなものにも多かれ少なかれ存在する。もちろん、どこまでがプライバシーにあたるのかの判断は難しいのですが、対象物をいたずらに「調べない」というのも、マナーの一つではなかろうか。そのような考えを念頭に、今回の記事を作ってみます。

読んで下さる方々も、「北山」の話だけでなく、「調べない」云々についても私といっしょに考えて頂ければ、嬉しく思います。

【北山村へ】

「街と鉄道」では、まず北山村周辺の地図をしっかり画いてみたいと思います。

「川の流れ」ほど、地形をはっきり映し出すものは無い。ゴチャゴチャ言うのはやめにしましょう。上の地図だけでも、北山村がスゴイところにあるのが、充分わかります。熊野川上流の大叉川が、海に近い、尾鷲-熊野間の矢の川峠まで、うねっているのですから。

それでは、東牟婁郡北山村の写真を見て頂きましょう。

【熊野市経由で北山へ】

95年の時と同様、今回も熊野市から北山へ入ることとしました。それでも、95年は、JR熊野市駅近くから北山村・七色峡へと通じる、県道七色峡線でのアクセスでしたが、今回は、大叉川最上流と並行して走る、国道42号(紀伊半島一周路)、国道309号、そして国道169号とつないでの北山入りを選択しました。そう、北山川上流側から村内へ入りました。

今回もまず、上流の北山村七色から…

多くのダム建設の影響で、水量が激減した七色峡。
ゴツゴツした岩がむき出しの七色峡よりは、数100mほど下流へ進んでから、写真を撮りましょうか。

北山村七色から、北山川下流を望む

そして、村役場のある、北山村大沼が近づきました。

北山村大沼から、北山川上流を望む

左写真の右手には、95年1月、私が昼食をとった食堂があります。当時、私は「北山村で昼食をとった」と思い込んでいたのですが…

よく考えてみれば、その食堂がある場所は、三重県熊野市でした。

そう、写真内、北山川の右側は熊野市でしたね。

北山村下尾井から、北山川上流を望む

さらに北山川下流へと進み、北山村下尾井まで来ました。
ここには、いわゆるレジャー施設があります。しかし下尾井でも、北山川と山並みをご覧頂きましょう。

私は、95年にも、この辺りまでは来ていました。いや、来れました。こういう表現をするのは…

実は、ここから先、北山川沿いを走る道路(普通車がまともに走れる道路)が無かったのです。このページの一番上に示した、漫画のような地図だけ見ていると、飛地の北山村から、簡単に他の和歌山県の市町村に行けそうにも思えるのですが、実際はまるで違ったのです。

そう、この地域が、かの有名な瀞峡なのです。

しかし、96年7月。北山村から瀞峡を抜けて熊野川本流へ通ずる、国道169号ができました。そう、北山川から熊野川本流沿いを普通車で走り抜け、大都会・新宮へ、やっと道路がつながったのです。
もちろん、まだ「とりあえず道路がつながった」だけと言ってよい状態であり、かなり長い区間にわたって、対向不能なのはもちろん、本当に道幅が狭い。(関東では味わえない、紀伊半島ならではの道路です…)

そう、これまでとは違う世界が出来たのです。

北山村小松から、北山川下流の三県境界を望む
(和歌山県北山村、奈良県十津川村、三重県紀和町の三県境界)

【あとがき】

これまで、他の和歌山県の市町村と満足に行き来が出来なかった、和歌山県東牟婁郡北山村。
「なんで、こんなところがあるのか？」
その理由を知りたいと思う気持ちが、ないわけではない。しかし、「知るべきなのか」と考えるのです。私が言いたいのは、『「興味本位に胸を張れ」などと簡単に言ってはいけないのではないか』ということです。
知る権利とは、人の心の中に土足で踏み込むことを認めたものではない。皆様は、どのようにお考えになりますか？

私は、和歌山県東牟婁郡北山村の歴史的背景を断片的にしか知りません。また、このページをお読み頂いた方の中には、和歌山県東牟婁郡北山村について、詳しい方もいらっしゃるでしょう。そして、もし「小原輝に北山の詳しい話を伝えたい」と思われるならば、喜んで聞かせて頂きたいと思います。
しかし、「伝えたくない」と思われれば、その内容は、胸の中にしまっておいて下さい。

廃線の話題も同じですが、この種の「街の話題」には、越えてはいけない一線があるような気がします。

完

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